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普通の会話は成り立たないけれど・・・

夫がアルツハイマーだと診断されてから、いや、診断のもっと前から、約束の時間や場所にちゃんと行けるのか不安を感じるようになった私は、夫が出掛ける時には常に同行するようになった。
と言っても、その頃はまだ私も仕事をしていたので、土日祝日、あるいは仕事が終わってからの夜、あるいは休暇をとっての同行だった。

夫は生まれつき耳が聞こえず手話をコミュニケーション手段としているので、認知症になっても、手話で通じ合えるコミュニティと共にあることを大切にしたかった。
認知症(アルツハイマー)の進行を遅らせるには、人との交流・コミュニケーションが大切だと言われていることも理由のひとつだった。

夫といつでもどこへでも一緒に出掛けていたお陰で、いつしか夫の友人たちや教え子たちとも旧知の仲のようにお付き合いをさせてもらうようになった。
私は夫の「外部記憶装置」になって、夫の持っている幅広い人間関係を覚え、コミュニティ内での出来事等を記憶して、夫が友人たちと会話をしたり、楽しくつきあいができるようにサポートしてきた。

けれども、最近、少々、しんどいなあ~と思うようになった。
夫の記憶障害がどんどん重度化してきて、どんなに私がサポートしてみたところで、普通の会話が成り立たなくなってきたからだ。

現実に流れている時間の中での事柄を記憶できなくなると、人は、自分の生きている世界を理解し把握しようとして、自身で物語をつくるようになる。
夫は、現実の世界を理解するための記憶の断片を見つけることができなくなったので、頭の中に残っている遠い遠い昔の記憶の断片を必死にかき集めて、自分なりに再構成し、「たぶん、世界はこうなっている。ボクは今こういう世界で生きている」と、自分の寄って立つ場所を確認することによって、心の安定を保っている。
世間的には、これを「妄想」と言う。

記憶障害も軽度のうちは、ちょっとしたフォローをすることで、会話を続けることができたけれども、「妄想」をもとにした会話ばかりになってくると、もうフォローのしようがない。

デイサービスとか家族会などの集団の中では、周りは手話がわからないので、夫が何かヘンなことを言っているというのが分からない(目立たない)。
けれども、手話で通じるコミュニティの中では、夫は明らかにヘンなことを言う人、とっぴょうしもないことを話す人、普通に会話ができない人になってしまったのだ。
「○○先生、ずいぶん、呆けてしまったねぇ」とコソコソ囁かれることとなる。

手話コミュニティの中にいるより、手話のわからない人たちの中にいるほうが、「私の」気は楽だ。
そうは言っても、あくまでも「私の」気が楽なのであって、「夫にとって」ではない。

「ボクは頭がヘンになっているのでしょう? みんなボクがヘンな人だって見ているでしょう?」
と言うことがある夫。
自分が何かを言ったときに、相手が怪訝な顔をするのを見て、自分は何かヘンなんだと受け止め、夫なりにいろいろ気を遣うことはあるのだろうとは思う。

けれども、「私が楽だ」という理由だけで、夫を手話コミュニティから遠ざけていいわけがない。
聞こえない人にとって、手話で自由に気ままに話ができる手話コミュニティの中に居るということは、とても重要なことだからだ。それは例え認知症になったとしても変わらない。

先日は、30年前に卒業した夫の教え子たち3人が訪ねてきてくれた。
夫が担任したクラスの生徒たちが、入れ替わり立ち替わり来てくれる。


生ビールで乾杯? でも、小さすぎない?
お土産にいただいた生ビールの形をしたゼリーです。

当時の写真をアルバムから剥がして持って来てくれて、
思い出話をしてくれる。
・・・と、夫が突然、誰も居ない空間を指さして、
「そこに、もう一人いる! ほら、そこ!」
と言い出した。

3人は、えぇっ?

また、いつもの幻視が出現したようだ。さて、困ったな~。
「そんなところに、人なんていないでしょう。」と夫をたしなめようとしたら、

「センセー、怪談ですかぁ? 
 昔よく先生、怪談を話してくれましたよねぇ~
 先生って、怪談、上手だったんですよ~
 すっごく怖かった~。」

なるほど・・・そんなふうに受け止めてくれたのね。
夫の幻視話を、夫が得意だった怪談を始めたのだと、善意に解釈してくれたのには救われたな~。

3人が来てくれても、夫が話すことは非常に少なかった。
たぶん、目の前でやりとりされる話(手話)を十分に読み取れないので、話に入ることができないのだ。
仮に、話(手話)を読み取れたとしても、記憶に残すことが出来ないから、適切な反応を返すことができない。
何かを問いかけられても、まったく別の内容の話を返してくる。
そんな感じなので、まあ、私が、適宜、間に入って、話題を繋げる。
とんちんかんなやりとりがあっても、まあ、気にしない、気にしない・・・

お茶菓子を食べているとき、夫はブラック珈琲に、塩味の揚げ餅せんべいを浸して、ぱくっと食べた。
「あっ! また、そんなヘンな食べ方をして」と私が咎めていると、
一人が、塩揚げ餅せんべいを珈琲に浸してぱくっと食べ、
「ほんと、美味しいですねぇ」。

常識にとらわれて、頭コチコチの私より、教え子たちのほうが、ずっとずっと、夫にやさしかった。

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 また、会いましょう! 先生、お元気でね、
 と、再会を約す。

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コメント

No title

ご主人さまの お人柄が しのばれます。
 多くの人たちに 気にかけて頂いているって 嬉しいことデスよね。

ウチモ 教員だったので 何かにつけて 人間関係が 他より 密のような気がします。

先生は いつまでたっても そのまま 先生なんです。
 ちょっぴり 胸張って!

はごろも様

こんばんは。

そうですよね。
多くの方々に気に掛けていただいていることに感謝したいと思います。
ありがたいことです。

はごろもさんのところも教員でいらしたのですね。

先生はいつまでたっても、先生だということも、私も感じることが多々あります。そういう時はちょっと嬉しく思います。

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Author:アワキビ
夫と2人暮らし。
子どもはいません。
2人と猫2匹の家族です。

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